
PROJECT
ZENBLACK
炭素ナノチューブを用いた世界最高レベルの黒色塗料を開発。1200年続く漆の伝統に現代技術を融合し、新たな表現の可能性を切り拓いた。

WHY
リサイクルの難しさの
原因の一つは、色にある。
黒は日本文化にとって本当に特別な色です。文化的には「忌色」として見ることが多 い他国とは違って、日本文化における黒は、ネガティブなイメージを超えて侘び寂びや静けさ、深遠さの象徴として扱われてきました。仏教の法衣、千利休の黒楽茶碗、あるいは漆の黒に見られるように、最上の静けさが要される場所に、つねに黒が出現してきました。また技術で立国してきた近代の日本もまた、自動車の塗装産業に代表されるように、黒の技術を時間をかけて高めてきました。現代のファッションでも、ヨウジヤマモトや川久保玲の「黒の衝撃」に代表されるように、現代でも日本美において黒は最も重要な色と言って良いでしょう。
そんな折、日本の大手塗装メーカーである「東洋インキグループ」が持つ、カーボンナノチューブ(CNT)の技術を含めた新しい黒色のコンサルティングをすることになりました。CNTの基本的な技術は世界的に話題になったVANTA BLACKと同様の技術を有していますが、それを様々な液体に解く分散体の技術があるという点で、東洋インキの技術は一歩進んでいました。折しも全く同じタイミングで、NOSIGNERは日本最大の漆器産地「越前漆器」のブランディング戦略を描いていました。地場産業は、売上の低下、後継者の不足、など未来の継続への課題がたくさん詰まっています。職人の高齢化も重なり、未来に伝統を継続できるようにするには、技術を活かした新しい産業を創出する必要があります。この2つの混淆に、日本の歴史に残る未来の黒を生み出すチャンスがあるのかもしれない。そうして古今の融合から世界に誇る日本の黒をつくるプロジェクトがスタートしました。


HOW
持続可能な社会を目指す
究極の黒色。

名もなき世界トップレベルの黒に、まずは名前をつけることにしました。日本における黒の深遠さを表現でき、外国人にも伝わる言葉を探して数十案を検討しながら、最後に「ZENBLACK」という名前にたどり着きました。この言葉は「禅の黒」「全ての黒」という意味を持っています。シンボルマークは、禅の円相を炭素の六角形で描く「六角相」としました。
そしてZENBLACK最初のプロジェクトとして、世界の工場、中国の深センでのインスタレーション展示をしてみて、製造業の関心をはかることにしました。なんとタイミングよく、スタート間もないタイミングでNOSIGNERに対して深センデザインウィークの入り口にメインのインスタレーションを展示をしてくれないかという依頼があったからです。
ZENBLACK GARDENは、カーボンナノチューブを活用した世界トップレベルに黒い黒色塗料「ZENBLACK」を用いた、世界で最も黒い石を持つ枯山水です。全面に敷かれているのは同じ炭素原子で出来ているはずの木炭であり、同じ黒にもかかわらずZENBLACKの黒さを際立たせる効果を発揮しています。木炭の一粒一粒をそのまま拡大したような相似形をもつZENBLACKの石が、まるで重力を無視するように立ち上がり、空間全体に緊張感を与えています。この展示によって、リリースしたばかりのZENBLACKは中国の様々なメディアに取り上げられ、日本の技術の国外輸出は大きく前進しました。
そこで私達は、象徴的な禅寺である龍安寺の石庭にインスピレーションを受け、炭の粒でできた枯山水を作庭して、その上にZENBLACKの塊を石の代わりに浮かべるという、極めて日本的な展示をすることにしました。この展示はとても高い評価を得て、中国の新聞各紙に取り上げられ、様々な人の目に触れることになりました。
また、2番目のプロジェクトとして、彼らの持つCNT分散体の技術を、漆職人の技術と融合し新しい漆黒をつくることを提案しました。しかし、漆の粘性が高く、分散体があるとはいえなかなか上手に混ざりませんでした。幾度もの実験をして、ついに私達は漆とCNTを配合した漆をつくることが出来ました。ZENBLACKから生まれた新しい漆は、漆が日本に伝来してからの1200年で最も黒い漆だと言っていいでしょう。この漆を使って、千利休が愛した黒楽茶碗になぞらえて、「禅黒碗」という抹茶碗をつくることにしました。
プロジェクト発足からようやく1年と少し、これらの挑戦から東洋インキグループの重点開発プロジェクトとしてZENBLACKが位置づけられ、今日も新しい黒を生み出すプロジェクトが進んでいます。





WILL
世界最黒への挑戦は
続く。
東洋インキグループは様々な色を研究している、巨大なインキメーカーです。それ故に、社内にもたくさんの黒の技術が眠っている可能性がありました。そこで私達は、世界トップレベルと言っていい黒がどれくらいあるのかを、東洋インキグループの皆さんと洗い出しながらプロジェクトを進めていくと、どうやらカーボンナノチューブだけでなく、他の用途の黒においても極めて黒い黒をたくさんお持ちであることがわかりました。ZENBLACKは一色ではなく、東洋インキグループが持つ9種類の「世界トップレベルに黒い黒」を指す名前になりました。日本の大手企業への採用が決まり始め、応用知財を開発するプロジェクトも着々と準備が進んでいます。
また、太刀川と個人的に知り合ったアメリカを代表する天文学者であり、アルマ望遠鏡などの内部の黒を開発するSteve Pompea氏などをご紹介し、さらに高みの黒への挑戦が徐々に始まっています。
時を超えた伝統と革新の結びつきから生まれた世界最黒への挑戦は、まだまだ続きます。
INFORMATION
- What
- ZENBLACK
- When
- 2018
- Where
- Japan
- Client
- Scope
- Branding / Branding stationary / Logo / Installation / Exhibition / Concept Development / Naming / Product / Concept Development
- Award
- FRAME Award: Final Round2019
- DSA Kukan Design Award: Best 1002019
CREDIT
- Art Direction
- NOSIGNER (Eisuke Tachikawa)
- Space Design
- NOSIGNER (Eisuke Tachikawa, Sui Fujikawa, Ryusei Noguchi)
- Graphic Design
- NOSIGNER (Eisuke Tachikawa, Ryota Mizusako)
- Product Design
- NOSIGNER (Eisuke Tachikawa, Niyen Lee)