
PROJECT
BYAKU
長野・奈良井宿の重要文化財を宿泊施設に再生。地域と旅人をつなぐ新たな観光モデルとなり、ミシュランキー(ホテル部門)の一つ星を獲得。

WHY
地域の文化や建物は
持続可能だろうか。
いま日本中で、地域固有の文化財となる建物や伝統産業などが急速に失われています。これはかつて、多くの人やモノが行き交う交流拠点として栄えた街道筋の宿場町も例外ではありません。
伝統的な木造建築が織りなす美しい日本の原風景が地域の魅力になっていた宿場町ですが、交通手段の変化によって人々の往来は激減し、かつての賑わいは見られなくなっています。さらに地域の高齢化・過疎化も相まって、長い年月をかけて培われた固有の文化をいまに伝える貴重な建築物を維持し、未来に遺していくことが困難な状況に陥っていました。
年々解体されていく伝統的な古民家

古町の課題


HOW
地域に宿る百の体験を
提供する宿。

長野県塩尻市の奈良井宿は、江戸時代の雰囲気を現代に伝える宿場町です。伝統ある木造建築が1kmにも及ぶ町並みは、他に類を見ない日本が世界に誇る遺産となっています。私たちはこの奈良井宿に現存する重要文化財の建築物をリノベーションし、レストラン、酒蔵、バーなどの施設が併設されたハイエンド向け宿泊施設のブランディングに関わることになりました。
中山道六十九次の34番目の宿場町として栄えた奈良井宿は、かつて人々の交流と物流の拠点でした。しかし、人口の減少や観光業の衰退などが進む近年は、地域を活性化し、この素晴らしい景観を未来につないでいくことが大きな課題となっていました。
こうした現状を受け、重要文化財である酒蔵を改修した複合施設をつくるプロジェクトが竹中工務店と塩尻市によって立ち上げられ、施設の企画プロデュースを手がける47(ヨンナナ)プランニングから、私たちはブランド開発の依頼を受けました。



CLIENT VOICE
太刀川さんとお仕事をさせて頂く中で最も印象に残っている事は、ありたい姿は見えていたものの、宿の名前が決まらず暗礁に乗り上げていた時です。
奈良井宿で改装中の現場を見た後、松本の宿泊先に戻る車中でずっと黙っていた太刀川さんが道中の○〇宿という看板を見て「宿という字の中には家と人と百が隠れている。百の家、百の人、そして百の物語でBYAKUはどうだろうか」と言った瞬間、私と事業責任者の宮地の歓声があがり、宿名がBYAKUに決まった瞬間が一番印象に残っています。
BYAKUは地域の宝をお預かりし、その宝を最高の状態でお客様に紹介させて頂き、地域のファンになって頂くことを目的としています。我々はBYKAUを日本一地域と深く繋がれる宿へと更に進化させて行きたいと思っています。NOSIGNERさんとはこのプロジェクトの伴走者として引き続きご一緒させて頂きたいと思っています。
株式会社47PLANNING
鈴木賢治


「宿」という漢字が、屋根の形を表した「宀(うかんむり)」と「百」「人」という文字によって構成されていることに着目した私たちは、この宿を通して、百人とつながり、百年の家を未来につなげることをヴィジョンとして掲げました。
「BYAKU」という施設名には、この地域とつながりを持つ人たちを何百(BYAKU)人にも広げ、建物を何百(BYAKU)年も残していくような宿のあり方を探求していきたいという思いが込められています。

一般的な高級ホテルでは、ゲストの体験は施設内に閉じ込められてしまうため、地域の活性化にはつながりにくく、むしろ地域との分断を生む存在にもなりかねません。そこで私たちはこの施設を、ゲストと地域をつなぐハブとして位置づけることが大切だと考えました。そして、地域に宿る「百」の物語を味わえる体験を提供していくことを、コミュニケーションの大きな軸に据えました。
私たちは、奈良井宿の人たちとともに抽出した地域の100の体験を1枚ずつカードにした「百札」を制作しました。レストランやバーなど施設内のさまざまな場所で百札を手渡されるゲストたちは、施設の中だけでなく外に出て奈良井宿でしか味わえない多くの物語を味わうことで、地域との関係を結んでいきます。そして、その体験の記憶をカードとして持ち帰ることができます。



リーフレットでは蛇腹折りを採用し、連なる奈良井の山々を表現。両面すべての見開きを、左面には奈良井の風景写真と散文でコンセプトを体現するページ、右面には奈良井宿の物語を写真とテキストで具体的に伝えるページに分けることで、奈良井宿が持つ空気感や精神性と、施設インフォメーションを対立させることなく伝える情報設計が実現しました。






「百聞一見の体験」「百味百薬のおもてなし」など、ブランドコミュニケーションにおいても「百」を用いた言葉にこだわり、ロゴデザインにおいても「百」の漢字を想起させるシンボルをつくりました。アラビア数字の「100」を90度回転させたデザインは、海外からのゲストにも施設名の由来を伝えるものとなっています。また、左右の「払い」は、古来からアジアで使われてきた「隷書体」をベースにしたものであり、欧文のロゴタイプにおいても隷書体のエレメントを取り入れています。歴史ある企業のロゴや老舗店舗の看板などに使われることも多い隷書体は、この施設や地域にふさわしい書体だと考えました。


さらに、施設全体のサイン計画や、「百」の漢字を模したオリジナル行灯の制作、信濃川の源流から水を引き込んだ「山泉」のロゴデザイン、Webサイトやリーフレットのデザインなどを手がけました。


湧き水を引き込んだ温浴施設「山泉」のロゴとして、温泉マークの3本線から着想し、「山」の漢字にも、源泉となる「川」の漢字にも見えるシンボルマークをデザインしました。オリジナルでデザインしている手ぬぐいは、航空写真を用いて周囲の山々から水が湧いていることを示しています。

奈良井宿を取り囲む山々に立ち込める霧やモヤ、命の息吹などを想起させる「幽玄さ」をテーマにWEBデザインを構築しました。地域で味わえる百の体験を綴った日本語と英語の散文が美しい写真とともにランダムに浮かび上がる演出によって、この場所からたくさんの物語が立ち上がってくる様を表現しています。


WILL
日本の原風景を
未来につなぎ、
人と地域の関係を育む。
2021年8月4日、奈良井宿では初の高価格帯を持つ宿泊施設として開業したBYAKUは、世界を旅する人々と土着の文化をつなぎ、地域に賑わいを創出することが期待されています。運営会社の47プランニングはBYAKUの運営管理を行う子会社「奈良井まちやど」を立ち上げ、自らが奈良井宿の一員となってゲストと地域の関係を育んでいくことに真剣に向き合っています。
BYAKUが提供する百の体験が起点となって奈良井宿の関係人口が増え、地域に活気がもたらされることを私たちは願っています。
奈良井宿に限らず、日本各地には人々の賑わいや地域外の人とのつながりが失われてしまった地域が多く存在します。BYAKUのモデルは町や建物に眠る資源をゲストが体験できる物語に置き換え、ディスティネーションとしての魅力を高めるものであり、ここから全国に展開できるはずです。
今後も私たちは、地域に眠るさまざまな資源を活用することで地域社会とツーリストの間に共生関係を描き、日本の美しい原風景を未来につないでいくことを目指していきます。


INFORMATION
- What
- BYAKU
- When
- 2021
- Where
- Narai-juku, Nagano, Japan
- Client
- Scope
- Branding / Branding stationary / Logo / CI Guideline / Promotional items / Pamphlet / Photograph / Web and Front End / Signage / Noren / Promotion Strategy Support / Business card / Welcome card / Hand towel / Promotional Video
- Award
- Social Products Award (2023)
- SDGs
CREDIT
- Art Direction
- NOSIGNER (Eisuke Tachikawa)
- Creative Direction
- NOSIGNER (Eisuke Tachikawa), 47PLANNING (Tatsuya Miyachi)
- Graphic Design
- NOSIGNER (Eisuke Tachikawa, Ryota Mizusako, Noémie Kawakita, Moe Shibata)
- Web Design
- NOSIGNER (Eisuke Tachikawa, Ryota Mizusako, Noémie Kawakita)
- Development
- NOSIGNER (Naoki Hijikata)
- Photograph
- Masahiro Ikeda, NOSIGNER (Yuichi Hisatsugu)
- Video
- NOSIGNER (Eisuke Tachikawa, Yuichi Hisatsugu)