チューリングパターンと両義性。
シマウマの柄や砂漠の砂丘など, 自然界には 不完全な規則性のある模様が数多く存在する。 全く違う現象の間にも, 本当に良く似た模様が 観察されることがあるが, その基本法則を 明らかにしたのはコンピューターの基本概念を 作った天才数学者アラン・チューリングだった。 彼は若くして亡くなるその晩年に, これらの自然の 模様が複数の要素の間に働く対流によって 生まれることを発見した。 それ以来, この縞模様は チューリングパターンと呼ばれている。 流動性があり密度の異なる要素が複数ある場合に, その両方が絡み合おうとすると対流が生まれ, それがゆらぎとなって, 模様をつくりだすのだ。 実はボロノイ図も, 複数の中心が等価にあるような 特別なコンディションにおいて生まれてくる チューリングパターンの一種である。 対流が生み出すパターンを美しいと思う感覚 というのは, 完全と不完全の間にあるゆらぎに リズムを見出し, そのリズムを心地良いと思う感覚に 近い。 チューリングパターンは, 自然が見せる 音楽的な造形と言えるかもしれない。
ボロノイと調和。
自然には, 要素を最小化して調和を指向する 性質がある。 例えば泡は, 内部の空気を閉じ込めて おける最小の表面積まで縮もうとする。 その過程で, 隣の泡とせめぎ合いながら, 多角形の 美しい幾何学模様を描く。 泡と同じような 幾何学模様は, 蜂の巣, セミの羽, キリンの縞, イギリスのジャイアンツ・コーズウェー海岸の岩など, 自然界の様々なところに現れるが, このパターンはボロノイ図(Voronoi)と呼ばれる。 ボロノイ図は, たくさんの点がせめぎあう状態で, 点と点の間に境界となる中間の線を引いていく, という単純なルールの幾何学だ。 多くの点が ほとんど等価値で共存する場合に, 自然が自動的に 描く形と言えるだろう。 最適化を目指す形を, 僕らが美しいと感じるのはきっと偶然ではない。 もし理想的な流動性を持つビルができるなら, 隣の部屋が空いた途端に壁が自動的に動き, 最小限の部材で空室分の空間が拡張される はずだ。 もし, そんな建物が実現したら, それはボロノイ図のような間取りを持っている かもしれない。